東日本大震災時の1F事故

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2011年3月11日14時46分に発生した東北地方太平洋沖地震により、福島第一原子力発電所は、全交流電源を喪失(Station Black Out)しました。

地震が発生し、原子力発電所構内が全交流電源喪失(Station Black Out)に陥ったと判明したとき、
東京電力及び、全電力の原子力関係者(特にオペレータ経験者)、原子力メーカーのエンジニア、
原子力保安院の職員、原子力に携わる研究者達は、炉心損傷⇒炉心溶融⇒原子炉圧力容器破損⇒原子炉格納容器破損を考えたはずです。

すぐに「最長許容炉心露出時間」のグラフを確認し、燃料域水位計のTAF(有効燃料頂部)を下回ってからの経過時刻を測定する必要がありました。

最長許容炉心露出時間

全交流電源喪失になり、すぐに電源が復旧しなければ、燃料被覆管損傷(炉心損傷)は、当然覚悟しなければならないものです。

冷却用の海水ポンプが駆動しなければ、D/GやHPCI、RCICがその能力を活かせる状態であったとしても、結局それらECCSを冷やすことができません。
唯一、1号機は非常用復水器(Isolation Condenser)を備えていましたが、その能力を活かすことができなかったようです。


ネットを検索してみると、
2011年5月18日の朝日新聞の朝刊に、
「東電は解析の結果、地震の翌日には燃料がすべて溶けて圧力容器の底に落ち、メルトダウンが起きたことを認めた。2、3号機については、燃料が溶けたことは認めているが、メルトダウンは認めていない。」


その前の2011年4月4日の読売新聞ニュースでは、
電源喪失で容器破損 東電報告書検討せず
「1F-2,3号機で使われている原発は、全電源喪失(SBO)時、3時間40分後にはRPVの圧力が上がって破損し、炉心の燃料も損傷。PCVは6時間50分後に破損して、放射性物質が外部へ漏れるという研究報告を『原子力安全基盤機構』が昨年10月にまとめていた。東電は報告書の内容を知りながら、電源喪失対策を検討していなかったことを認めている。」


この読売新聞の記事ですが、少しおかしいです。
「東電は・・・・・電源喪失対策を検討していなかったことを認めている。」

電源喪失対策は検討していました。ただ、対策が未熟だったのです。
少なくとも20年くらい前には、全電力と原子力メーカー共同の研究報告書が出ています。
ですから、電源喪失に限らず、不測事態の対応に関する研修を受けていました。

それにフルスコープシミュレータ(自社あるいはBWR運転訓練センター)で、全交流電源喪失の事故対応訓練を実施しています。
ただし、フルスコープシミュレータのモデル内には炉心損傷、炉心溶融、RPV破損、PCV破損の挙動のすべてを模擬していませんので、インストラクターが前述の共同研究報告書の内容を確認してながら、その挙動を模擬していたにすぎません。
アポロ13に登場したシミュレータのような、国家の威信をかけての予算額ではないので、原子炉内の全ての挙動を完全に模擬することはできないのです。

東京電力が平成27年5月20日付けで公開した、「福島第一原子力発電所1~3号機の炉心・格納容器の状態の推定と未解明問題に関する検討 第3回進捗報告」の中に記載されている、1号機と3号機のMAAP解析結果は以下です。

1F1解析1F3解析

地震が発生してから圧力容器が破損するまで、短時間であることがわかります。

原子力に携わる者は、原子力保安院の保安官も含めて、アクシデントマネジメントの研修を受けていましたし、
コンピュータ上での学習装置も導入されていました。

当時の原子力保安院の職員、全電力の原子力関係者(特にオペレータ経験者)、原子力メーカーのエンジニアは、
全交流電源喪失が継続したらどうなるのか、何をしなければいけないのかを知っていたのです。

全交流電源喪失になったら、やることは、

もちろん、海水注入は以前から、事故時運転操作手順書(事象ベース、兆候ベース、シビアアクシデント)の中に記載してあります。

なぜ、東京電力を始め、少なくとも同じ沸騰水型原子炉を持つ、東北電力、中部電力、北陸電力、中国電力、
日本原子力発電、電源開発のオペレータ経験者、東芝、日立の原子力オペレータ関連のエンジニアは声をあげなかったのですか?
BWR運転訓練センターのインストラクター及びその経験者は、何をしていたのですか?
政府関係者から口止めされたのですか?
職を賭してでも、真実を明らかにすることはできなかったのでしょうか?

情報を公開しなかったのは、自己保身ですか?

どうして地元の住民にいち早く、原子力発電所の状況と気象状況を通報してあげなかったのですか?
状況を把握している人間はいたはずなのに。
被ばくはしない方がいいに決まっています。


まだ原因究明がされていない時期、2011年4月28日の東京新聞には、
【浜岡3号機の再開計画 中部電 7月までに】
本誌の取材に、中電幹部は「緊急対策はあくまで安心のためで、現状も安全は確保されている。丁寧に地元に説明し、夏場までには稼働させてもらいたい。」 と話した。


との記事が載りました

立地審査指針に適合しない1F事故が発生し、原因もはっきり分かっていない段階で、よくも、現状も安全は確保されていると話されたものです。
この時期テレビでも、中部電力の原子力広報関係者が、「浜岡は安全であると確信している」と話しているのが放映されていました。
何の根拠があったのでしょうか。


2012年7月17日東京新聞 朝刊より
政府が発電量に占める将来の原発比率について国民の意見を直接聞く三回目の意見聴取会が、16日名古屋市で開かれた。
<中略>
発言したのは、中電原子力部に勤務する課長の岡本道明氏(46)
「個人的な意見として、原発をなくせば経済や消費が落ち込み、日本が衰退する」と述べ、原発の新増設を前提とする20~25%案に賛成の立場を表明、「35%案、45%案があれば選択していた」とも述べた。
1F事故では「放射能の直接的な影響で亡くなった人は1人もいない。今後5年、10年で変わらない」と言い切った。
<中略>
中電広報部の担当者は「会社の指示で出席や発言をさせたわけではない」と述べた。


と掲載されました。

課長になるくらいの人物であり、当然、出席することを上司に告げているわけであり、日頃からの言動を見ていれば、どのような発言をするのかもわかっていたはずです。
つまり、中電社内の空気を岡本課長が代弁したのでしょう。
個人的な意見と話されても、信用できません。
大体、原子力発電所などによって利益を供与されている組織に属している人間ですから、原発に消極的なわけがないのですが、彼は世の中の空気を読むことと、人として哀悼の気持ちを持つことのできないタイプなのでしょう。

このような人たちが関わっている原子力発電所、いざという事態に隠ぺいする政府、省庁などの関係者達。

どんなに綺麗ごとを言っても、今まで原子力発電所の中で公にされなかったトラブルがあったこと、公開ヒアリング時には組織的に参加希望ハガキを書かせたことなど、原子力事業(自分達の職業)を守るために手を尽くしています。

「日本のエネルギーを守る」という美辞麗句には、自分達の利益を第一に考えていることが隠されているのです。

どんなに安全設備を拡充させたとしても、"絶対"事故が起きないとは言い切れません。
それに関わる人間の心と、その人たちが属する組織の体質が変わっていなければ、他人のことより自己保身を優先的に考え、1F事故時と同じように声を潜め隠蔽することでしょう。